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坊守の俳句エッセイ

するつもりなき大掃除してをりし   釋法蓮(法子)

春休みのある日、娘の幼稚園のお友達とそのママ達が我が家へ遊びに来ることになりました。主人にその事を言うと「まさかこの部屋に呼ぶ気なの、結構汚いけど・・・」とリビングを見渡すのです。確かによく見れば、窓の桟はホコリだらけ、キッチンもところどころにカビが生えているところもあります。「これはまずいかも」と、家の大掃除をすることになりました。

「大掃除」というと、年末と思われるかもしれませんが、三月の季語です。かつて年度末に役所などが清掃日を決めて大掃除を行われたことに由来します。 

私はハッキリ言って掃除が苦手です。常に身の回りのものを整理して生活するというのはとても難しいことだと思います。しかし、今回、他人に隅々まで見られるという大きな動機が生まれたのです。ここは一主婦としてのプライドを保たなければいけません。私はそれから、当日まで掃除をしつくしました。前日などは午前二時までかかりました。

 友達を招き入れ、「全然掃除をしてないんです」と明らかな述べる自分が、少し恥ずかしくなる程でした。友達が帰った後、力尽きた私は、すぐにリビングの電気じゅうたんの上で、眠りこけてしまいました。主人と娘に起こされるまで、リビングの掃除をする夢をみていました。

婦人等のおしゃべり続き麗らかや   釋法蓮(法子)

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私には女子大時代からの親友が二人います。メールはほぼ毎日やり取りをし、実際に会うのは数ヶ月に一度。誰かれともなく「そろそろ会おうか」と言い出します。

大抵会う時は、デパートの最上階でランチをし、そのままお茶をし、三時間くらいでおひらきとなります。話す内容はとてもたわいのないことです。

最近見ているテレビドラマの話、仕事の話、家族の話。それでも若い頃は、恋の話などもしましたが、この頃はさっぱりです。私は結婚していますし、友人は二人とも独身で、今のところ結婚する予定も全くないのです。

その代わり、親の看護について話すことが多くなりました。実際に友人の一人は、すでに病気の両親の看護を全て一人でやっています。しかし、重い話も三人でいる間は笑い話になってしまいます。

そして、そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、名残惜しくも急いで家路につく帰りの電車の中、冒頭の句のような光景を見ました。六十代くらいの三人組の女性が、並んで座席に座り、買い物をしたデパートの袋をひざに乗せ、楽しそうにおしゃべりを続けていました。

きっと私達と同じように楽しいひと時を過ごしていたのでしょう。私はそのおしゃべりをBGMに、うとうとしながら、私たちの友情が長く続くことを願っていました。

 

先に来し人の足跡蕗の薹   釋法蓮(法子)

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二月になりました。いよいよスギ花粉の季節です。鼻水がとめどなく出て、目もかゆく、私は毎日マスクをして出かけています。「少し早いのでは?」とお思いになるかもしれまんが、毎年症状が出始めるのは、一月末なので、二月はもう本番なのです。

 私は、花粉症に効くといわれるものは、大抵試しました。近年ヒットだったのは、「つくし」です。つくしがアレルギー症状を抑えることが研究され、つくし飴となったものをなめると、鼻がすっと通ったのです。それでは、つくしをそのまま食べたらもっとよいのではないかと、近くの大山に探しにいってみました。

しかし、探しても探してもつくしは見つかりませんでした。時期が早かったのでしょうか。あきらめて帰る道に、蕗の薹を見つけました。実物をあまり見たことがないので、最初は半信半疑だったのですが、何個か摘まれた跡があったので、間違いないと思いました。つくしを入れるはずだったビニール袋に入れ、摘んだ蕗の薹を持ち帰りました。

家で早速天ぷらにしました。以前スーパーで買った蕗の薹はすごく苦かったのですが、採りたての物の苦みは爽やかで、甘味がありました。思いがけず本物の味を知ることが出来た、早春の一日でした。

 

凧と吾を繋ぐ糸でありにけり   釋法蓮(法子)

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毎年、お正月の晴れた空を見上げると、凧揚げがしたくなります。去年、ふとその衝動に駆られ、実家の自分の部屋にしまっておいた凧を引っ張り出しました。赤塚不二雄さんの漫画の絵が描いてあるビニール製の凧ですが、かなりのレア物です。

 そして今日は風もあり、最高のコンディション。法徳寺の駐車場で娘と二人で揚げ始めると、ぐんぐんと糸いっぱいまで、あっという間に揚がりました。すると、主人と弟がやってきて、「もっと糸を足そう」ということになり、足すとますます凧は高くあがりました。

もはや絵柄などまったく見えず、青空に黒い点となった凧。その凧と自分を繋ぐのは、この凧糸のみで、これを放したら、すぐに何処かに飛んでいってしまうという緊張感がたまりません。

 はしゃぐ私たちに対し、娘はすでに飽きて、違う遊びを始めていました。三十半ばの輩が三人で凧揚げに興じているという姿は、はたから見ると、いかがなものかと、ふと脳裏によぎるのでした。
 

 

御正忌や炎大きく朱蝋燭   釋法蓮(法子)

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先月、立徳寺では初めての報恩講が勤まりました。報恩講(御正忌)は親鸞聖人のご命日(新暦は一月十六日)で、十一月の季語になっています。この日は前日から主人と私と娘で作った、けんちん汁や、法徳寺の住職手作りのお赤飯が振舞われ、お土産には紅白餅をお渡ししました。 

 その二日後、早速お参りされた方より、お礼のお葉書をいただきました。そこには、このように書かれていました。「お赤飯といい、紅白餅といい何か嬉しいことなのですね。御聖人様のご恩を深く感じました。」仏前の蝋燭も珠、まさに報恩講とは慶ばしく有難いもので、聖人のご生涯を通して、阿弥陀如来様のご本願を聞かせていただく法要なのです。

 京都のご本山では、一月に御正忌報恩講が勤まります。そのため、ご本山に皆様がお参り出来るよう、それ以前にお勤めされることが多いのです。立徳寺でも無事に終えることができ、ほっとしています。これで、安心して新しい年を迎えることが出来ます。

 

 

親といふ自覚新たに七五三   釋法蓮(法子)

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浄土真宗では、七五三のお参りは、子の成長を阿弥陀如来様にご報告をする法縁です。一年前、我が家でも娘の三歳のお祝いをいたしました。
 娘は朝から着付けをし、ずっと伸ばしてきた髪を日本髪に結い、写真撮影をするという忙しい一日でした。いつもとは違う姿で、ナムナムする娘の横顔は、とても眩しく映りました。それと同時に、娘を一人の人間、女性として改めて実感し、私はこの子の親なんだという自覚が新たに芽生えたのを思い出します。
 一年前の気持ちなので、すっかり忘れていましたが、この句を読み直し、あの頃のことが、甦ってきました。俳句は私にとって記念写真のようになっているようです。
 このエッセイも今月号でちょうど一年になります。気持ちを新たに、これからも皆様が楽しみにしていただけるよう、精一杯続けてまいりたいと思っています。楽しみにしていてくださいね。

 

子の涙エプロンで拭く秋の暮   釋法蓮(法子)

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この句は先日の朝日新聞の俳句欄に載ったものです。「新聞の俳句欄って誰でも載るんでしょ」と言われることがよくあります。いえいえ、それはとんでもない間違いですと声を大にして言いたいです。そもそも朝日新聞の俳句欄は全国版です。朝日新聞の発行部数からいっても、俳人にとって、この欄に載る事は憧れといってもいいでしょう。週に五千句以上の投句があり、選ばれるのはたったの四十句。最低でも百二十五分の一の確率です。

 何度か私も、この欄に載せていただいたことがあります。最初の頃は、先輩の俳人の方々に、お祝いのお電話やお手紙をたくさんいただきましたが、今は誰にも何も言われません。少し寂しい気がします。 
 この句は私が夕飯支度をしていると、いつものように、たいしたことの無い事で、娘が泣きながらすがりついてきた時のことです。手が離せず、拭くものもないので、仕方なくエプロンで拭いたというものです。
 なんとなく昭和の匂いがしませんか。サザエさんにも出て来そうな場面です。そんなノスタルジックでほのぼのとした母と子の姿に、選者の方はこの句を選んでくださったのでしょうか。

 

住み慣れて来しこの街の夕焼くる   釋法蓮(法子)

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伊勢原市に引っ越して来て、一年以上が過ぎました。この町の文化や風習、ルールも、だいぶわかってきた気がします。伊勢原は江戸時代の初期、大山詣りに訪れた人々に開拓され、豊かな自然と歴史があり、古くから栄えた町です。ですから、とても古い風習が残っていたり、地域の人々との結びつきが強いようで、自治会の活動なども盛んです。

 そして、この町の広い空や、多くの田畑の風景もすっかり目に馴染んで来ました。伊勢原の象徴ともいえる、大山に沈む夕日はとても美しく、郷愁を誘います。以前に、自治会でお世話になっている伊勢原に住んで三十年という初老の男性が「伊勢原はとってもいいところですよ」と、にっこり笑って私におっしゃいました。「ええ本当に」と、心からうなずいたことを、この夕焼けを見ると思い出します。

 また、つい先日、おそば屋さんに出前をお願いしようと、電話で我が家の住所を説明しようとすると、「あの新しく出来たお寺さんね」と言われました。いつの間にか、立徳寺も伊勢原に馴染み、風景の一つになっているんだなと、少し嬉しくなりました。

 

眠りたる吾子を背負いて大花火   釋法蓮(法子)

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只今、花火大会の最盛期です。連日、何処かしらで大小様々な大会が行われています。私は花火が大好きなので、出来る限り行きたいと思っているのですが、反面とてもめんどくさがりなのです。人が多い中で長時間見物するのも、途中で飽きてしまい、すぐ帰りたくなってしまいます。ですから、毎年テレビ中継でやっている大江戸花火大会は、家に居ながら近くで観ることができ、解説までしてくれるので、私にとっては最高です。こんな横着者が花火好きなどというのは、少し図々しいかもしれませんね。

 そんな私でも、とても気に入っている花火大会があります。ある自治会の夏祭りに行う花火なのですが、打ち上げている時間は、たった五分ほどです。しかし、すぐ近くの湖から打ち上げているので、ド迫力の花火なのです。真上に上がっているので、その間にもう首が痛くなってしまいます。あまりに近いので火の粉も降ってきます。花火には、遠くで観賞する、「遠花火」というロマンチックな言葉もありますが、この花火は正反対の「大花火」でした。

 花火が終わり、ふと気付けば、娘は夫の背中で、花火を見ることもなく寝ていました。この爆音の中で寝ることができるとは・・・。今年は是非この特大の大花火を最後まで見せてあげたいと思っています。

 

汗掻きの父に似たりし吾子の汗   釋法蓮(法子)

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先日、新聞屋さんに頂いたタダ券で、健康ランドへ行ってきました。そこには温泉の他に、今流行りの岩盤浴があり、私は初の挑戦を試みることにしました。岩盤浴とは、温かい岩盤の上に寝そべり、汗や老廃物などを体から排出するという健康法です。私は電気絨毯の上で、うたた寝するのが大好きで、その感覚と似たものと思っていました。ところが、予想とはまったく違うものでした。その健康ランドの岩盤浴は、ドーム型の覆いの中に入るもので、従業員のお姉さん曰く、「大変効果が高い」そうなのですが、入ったとたんに「暑い・・・。」と、言葉がでてしまうほど。「そうですか?では一番低くしますね」と温度を下げてもらったのですが、それでも私には暑すぎるほどでした。隣では、私と同じ年頃の女性が、気持ちよさそうに目をつむり、微動だにしていません。私にはとても苦しく、例えるなら、暑い部屋で厚着をして、こたつの温度を最強にして首だけ出して入っている感じです。結局三十分コースを二十分でギブアップし、結構我慢したつもりが、ほとんど汗を掻く事無く終わってしまいました。

 館内の食堂でおち合った主人と娘は、爽やかな汗を掻きながら、二人でチョコレートパフェを食べていました。帰りの車の中では、「暑いね」と冷房をかけています。私は寒かったのですが、二対一なので、仕方なく上着をはおり我慢をしました。リラックスをしに行ったはずの温泉が、我慢ばかりになってしまいました。あげくの果てには、私だけ湯冷めをして風邪気味に。なんだか腑に落ちない一日でした。

 

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